描きたいところ(オチ)だけ漫画で描いた話です。
文章パートは読んでも読まなくても&後から読むでも大丈夫かと思います。
あらすじ(文章)
あらすじ(文章パート)
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ある朝目が覚めると、小指に赤い糸が括り付けられていた。ご丁寧に蝶々結びだ。
それはとても長い糸で、どこに伸びているのかもわからない。
こんなイタズラをしてくるのはリリアだけだろうと思い、訊ねるもリリアは首を傾げて見せた。
まだ1歳程のシルバーのはずもなく。
行き過ぎた無意味なイタズラに少し、苛立ちを覚えながらもう一度問い詰めると、リリアもシルバーも「そもそも見えない」様子だ。
ひとまず納得をしたフリをしたものの、視覚的な煩わしさにどうも苛立つ。
断ち切ろうも、掴もうとする手は空をきった。
城に戻るとふと、それまで地面にまで力なく垂れ下がっていた赤い糸が、少したゆむ程に張っていることに気付く。
まるで自分がそれに近付くにつれ、誰かが余分な糸を巻いているかのようだった。
赤い糸の繋がる先を見ると城一番の大きな鏡があり、糸は鏡に吸い込まれているように伸びている。
鏡には、赤い糸は映っていなかった。
それから、リリアを含む誰からもイタズラを白状されることはなく、見える者も現れず気が付けば15、6年ほど経っていた。
煩わしさすらとうに忘れ、学園生活にも慣れてきたある日 突然、糸が引かれた。
釣り糸を引くような感覚だった。
そんな事は赤い糸が見えるようになってから一度もなかったのに。
一度引かれるようになった糸は、気まぐれに引かれるようになった。 糸が引かれる度に、小指を浮かされ折角忘れられていた煩わしさを思い出した。
が、それはまるで「気付いて欲しい」と訴えるような感覚から、幼少期のシルバーが遠慮がちに裾を引いてきた記憶をも蘇らせた。
依然として不快感は感じつつも、なんだか邪険にもし辛くなってしまう。
気を紛らわせようと、入学以来気に入っている廃墟に赴くとした。
…。
これまで誰もいない、安らかな沈黙を貫き明かりが点ることもなかったそこには、1人の見知らぬ人間がいた。
聞けば少し前にここに住み着きはじめたという。
気に入っていた場所を、知らぬうちに後から来た知らぬ者に踏み荒らされ酷く落胆した。
しかし習慣からか、つい通っているうちに廃墟よりもその人間に興味を惹かれるようになった。
それは、その人間の自分に対する接し方のせいなのか、はたまた
赤い糸がその人間の小指に繋がっていたせいなのかはわからない。
「お前と僕の小指を〝赤い糸〟が繋いでるんだが、お前には見えるか?」
少し親しくなった折、そう問うた。
人間は「赤い糸の話って異世界共通なんだ」と目を丸くして関心した。
質問の答えについては脇にやられたが、まるで心当たりがあるかのような反応だ。
糸にまつわる伝承や、運命の糸という言葉は聞き馴染みもあるが… 一旦自分の中で思案していると、人間は「貴方もそんな風に女の子をからかったりするんだね。」と笑った。
「からかう……?〝赤い糸の話〟とは人をからかうような内容なのか?」
聞くと、人間は先程の笑みを消して怪訝そうな顔をし、そっぽを向いてしまった。
顔を覗き込みもう一度同じ言葉で聞くと、人間は一瞬固まったあと 「…言いたくない。」と、またそっぽを向いてしまった。
拗ねた表情の上に、少しの赤を載せて。
………。
その表情ひとつで、糸や伝承のことなどすっかりどうでも良くなっていたことには、自分でも気が付かなかった。
それから、糸に引かれるようにその人間の顔を見るために足を運んだ。 釣り糸にかかった魚のような気分だったが、何故かどうも心地が良かった。
あれだけ煩わしかったこの赤い糸すら、どうしようもなく愛おしい。 引かれる糸に小指を浮かされる感覚は、胸を苦しめるほどに彼女を想わせた。
いつの間にか、彼女に愛を告げるのが日課になっていた。
彼女は困惑し、時には嫌がった。
何十回目だろうか。
もう聞き飽きたであろうが、自分は未だ言い飽きぬ「今日も愛している。」という言葉をかけると、彼女は、しばし俯き黙った。
機嫌を損ねただろうか、と顔を覗き込むと彼女はまっすぐ見つめ返してきた。
そして、やっと絞り出すように声を漏らした。
「……私も、……好き…」
ーーー…
それは、夢の中で揺蕩うような有頂天の真っ只中だった。
彼女が〝在るべき世界〟に帰ることになったのは。
表向きは彼女の意思を尊重したが、内心は怨みすら抱いたかもしれない。
やっとこの赤い糸のように結ばれたのに、それを彼女から「解こう」と言われたようで。
少し拗ねていた。
寂しがる彼女を、自分は笑顔で見送った。
「お前が決めたことだ。」
心の中でそう毒づく自分に、嫌気が差した。
赤い糸は、 まだ鏡の向こうに繋がっている。
ーーー
彼女が元の世界へ帰ってひと月ほど経った頃だった。
グリムはトランプ兵達と共に厳格な女王の元で暮らし始め、再びこの寮は廃墟へと戻っていた。
内心では怨みを抱えつつも、未練がましくこの廃墟へ赴いては彼女がいないことを実感し、心を傷めた。
しかし痛む心にも彼女を感じ、安心感も覚えた。
痛みすら愛おしかった。
それほど彼女を愛してしまった。
ひとしきり彼女を想った後は、去る前の挨拶がわりに鏡に触れる。
彼女に触れるように、鏡面を優しく撫でた瞬間 気がついてしまった。
「……糸が…」
思わず声に出た。
赤い糸は、目を凝らさねば見えぬ程に薄く透けていた。
これが目に見えることで、今も自分と彼女を繋ぎ留めてくれていることを実感出来ていたのに。
迫り来る絶望に酷く狼狽えるが、非情にも糸は見る見る薄れていき、やがて消えた。
「絶たれた」
口元は、もはや声ですらない空気を鳴らしていた。
(文章パートは以上です。オチは↓の漫画にて)
オチ部分(漫画)









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